※本記事内の動画はアニメ『デジモンゴーストゲーム』より研究のために引用したものであり、それらの権利は本郷あきよし・フジテレビ・東映アニメーションに帰属します。
直井正博
東映アニメーション作品に長く参加しているアニメーター。歴代ニチアサ作品で一人原画や作画監督を多く務めている。仕事が速くてかわいらしい絵を描く人というイメージだったのだが、『デジモンゴーストゲーム』2話で直井正博っぽい絵柄でかなり上手い芝居が連発されていて驚いたので記事を書くことにした。
宙の寮の自室のシーン(39カット)と続く上野総合博物館のシーン(25カット)が担当だと思う。根拠は僕の脳内での画風照合ときりの良さ。原画の先頭にクレジットされているので担当箇所が多かったことは想像できるが、総作画監督に二階堂渥志、作画監督に宇代祐規と大山康彦がクレジットされているので完成画面への貢献度が高かったのが誰かはよくわからない。絵コンテは中村亮太・三塚雅人、演出は中村亮太。
カット紹介
ここに掲載した動画が本来のタイミングを保っているという保証はない(某動画配信サービス。
1. 右足を押さえて左足でジャンプしながら1回転
人体をいろんな向きから描かなきゃいけないからシンプルに難しい。キャラ芝居ではしばしば負担軽減のために接地面を見せないレイアウトを使うが、ここではしっかり足も描いている。非現実的なくらいオーバーなポーズが含まれていて「痛い」ということがしっかり伝わる。
2. ハンバーガーを服の中に隠して周囲をキョロキョロ見回しながらドアを開けて部屋を出る
日本語にするだけでいかに複雑な芝居かわかる。無駄な動きがない。最後の1コマまで周囲を窺う右目が見えているのがコミカル。
3. 頭に手を当てて考え込み、質問を思いつく
ここでは頭を上げる前に一旦頭を下げる予備動作が入っている。閉じた目を開くことで質問を思いついたことを表現し、手を開いてガンマモンを見る。退屈になりがちな会話シーンをやや芝居がかったポーズで彩る。
4. 的はずれな回答にがっかりする
がっくりと脱力する前に緊張のポーズ(ここの手の描き方が非常に直井正博っぽい)が入っていて、落差を強調している。
5. ドアに向かって歩きながら手を広げ頭に手を当てベッドを指差す
斜め上から足まで全身映して歩行しながらの芝居。めちゃくちゃ大変なことしてる。
6. 呆れて立ち去る友人を追う
肩をすくめた後、背を向けながらお好きにどうぞとばかりに右手を出す。それを追う瑠璃は最初の2歩だけ速くてその後普通の歩行のリズムになる。友人を追いかけるというシチュエーションに合った細やかな工夫。
作風
1枚の絵だけで状況や感情を表現できるようなポーズを描く能力に優れており、そのような絵をシンプルな中割りでつないで動かしている。予備動作やフォロースルーをあまり描かないという点で今の流行とは違っているが、ポーズ重視ならむしろ余計な動きは省いたほうがいいのかもしれない。
明らかにセリフの内容を意識した芝居になっているが、完成映像ではセリフとそこまでシンクロしてはいない。さすがそこまでやるのはテレビアニメだと厳しいのかな。でも止め絵口パクよりははるかに表現力があってアニメを見ている気分になる。
デジモンゴーストゲーム
一貫して「怪奇」を中心にした物語になっていて、キャラクターや世界観が前面に出てこないのが特徴。そろそろ大まかな目標とか提示されそうだけど。
参加メンバーについて
- 舘直樹
- アクションが相当上手い人だが今のところ作画監督ばかりやっている。
- 志田直俊
- 1コマ作画、細かく粘り気のあるエフェクト、極端なパースとカメラワークが特徴の東映のエースアニメーター。
- 八島善孝
- 直井正博と同じくニチアサ一人原画の巨人。実は煙や爆発がちょっと上手い。
- 地岡公俊
- カットを細かく割ったアクションの演出が非常に上手い。監督よりは各話演出やってほしい人。
- 池田洋子
- 知る範囲だと山内重保の系譜を感じる表現主義的なコンテを描く人だけど、サンプル数が少ない。
- 中村明博
- ワールドトリガー3人衆(ワールドトリガーで本郷みつるによって育成されデビューした唐澤和也・川崎芳樹・中村明博)の1人。
- 鎌谷悠
- Goプリ5話で鮮烈なデビューを飾って話題になった。その後はあまり見てないが『魔女見習いをさがして』で忙しかったんだろうか
- 東映の演出助手が演出デビューする回は大抵かなりゴージャスな出来になる。演出助手として採用されるのは学生時代にすごいのを作っていた人間ばかりだし、デビュー回はご祝儀的な意味でリソースを潤沢に使わせてもらえるから。
- Goプリ5話で鮮烈なデビューを飾って話題になった。その後はあまり見てないが『魔女見習いをさがして』で忙しかったんだろうか