はじめに
一言でいうとよくわからなかった。というのはキャラクターの暗黙の行動原理や思考、性に対する考え方が見ながらリアルタイムで補完できなかったからだ。志村貴子の世界観が僕の人生経験と違いすぎる。
Episode1 えっちゃんとあやさん
4つの中では一番理解できたエピソード。えっちゃんとあやさんがあまりにも簡単に性的な関係になった展開は疑問、というか納得できなかった。
2人は互いに面識もなかったのに、同じ女性を好きだったというだけでいきなりセックスする。そういう恋愛もあるのかもしれないが「なにもしない」と言って自宅に連れ込んで、えっちゃんが酒に酔っている(当然判断力も低下している)のをいいことに胸を触り、性行為に至るというのはレイプに近い行為なのではと感じてしまった。
そもそもにそこに至る描写があっさりしすぎていて、同性愛者は常に相手に飢えていて、丁度いい相手なら誰とでも関係を持ちたがるという観念のもとに描かれているのかなとも思った(志村貴子の世界ではセックスとは常にこういうものなのかもしれない)。
Episode2 澤先生と矢ヶ崎くん
一番わからなかったエピソード。澤は毎年生徒を送り出して(毎年3年生の担任なのか?)彼らとの関係を失うことに寂しさを感じているが、それに慣れ始めてもいる。ある年、卒業生の矢ヶ崎が卒業式のあとに澤に告白する。矢ヶ崎は言うだけ言って去り、2度と登場しない。
- 澤は同僚の1人に告白された事実を話そうとしてやめる
- わざわざ2人きりになってから話そうとしたのでこの同僚は澤と特別な関係なのかと思ったがそうではなかった
- 澤は帰宅して卒業アルバムの矢ヶ崎の写真を見ながら幸福感に浸る
- 自慰のメタファー?
- 澤は矢ヶ崎と恋愛関係になりたいという意味かと思ったが特に何も行動してない
- 1年後の卒業式の日に偶然姉と会い、姉とその同棲相手の家に行く
- 放尿シーンの意図がわからない
- 姉に「高校生大好き」と言うので、澤は矢ヶ崎個人ではなくて高校生というジャンルが好きらしい
- 夢の中で姉が踊るという描写の意味がわからない
- さらに1年後の卒業式の日、自ら謝恩会を提案する
澤が卒業する生徒と関係を築く一歩を踏み出したというストーリーは理解できるが、矢ヶ崎の告白やそれに対する澤の反応はなんだったんだろう…?
Episode3 しんちゃんと小夜子
これはそこそこわかった。
- しんちゃんとみかちゃんに出されたさくらんぼ(チェリー)を小夜子が1つ食べるシーンがあったが、これは幼いカップルの純粋な関係を大人の小夜子が乱すことのメタファー
- 夢精は2回するが自慰の描写はない。それは身体ばかりが成長するが精神や行動はそれに追いついてないからだ。みかちゃんの家で胸を見せられてもセックスはできない。
- 佐々木との決闘展開はなんだったんだ?
- 小夜子が去った後に一度視聴者の目をしんちゃんとみかちゃんの関係に向けさせたうえで、改めて「ほんとはさみしかったんだ」を言わせるためかな
Episode4 みかちゃんとしんちゃん
Episode3の2人の関係の深化を描いているのだろうが、展開もオチもぼんやりしていてよくわからなかった…
- 小夜子がAVに出演している情報を漏らしたのはみかちゃんなのに、なんで他人がそれに言及すると「死んでよ」と言うのか
- もちろんみかちゃんとしんちゃんのカップルに対する悪意のこもった発言ではあるのだが、それ以前に自分がしんちゃんの秘密を漏らした以上こうなるのはわかっていたことだし、漏らしたことがしんちゃんにバレるシーンなのにとっさにそれを気にしてないのは不思議だ
- みかちゃんの兄が帰ってくる展開いる?
- しんちゃんに見られてみかちゃんが上手く歌えなくなるシーンはよかった(歌声を聞かせずにモノローグを聞かせる演出も含めて)。呼吸は生命活動に不可欠なので意思ではコントロールしにくい。性欲が理性を圧倒するシーンとして説得力があった。
- みかちゃんは自分からしんちゃんに性行為を求めておいて、いざ触られると小夜子のことを考えていると思いこんで怒るのか…
- たぶん好きな人にはここが面白いところだと思うんだけど、僕には面倒くせえとしか思えなかった
- 結局なんで問題が解決したのか。以下の複合的な要因かなと解釈している。
- 単純に一度性行為を試みて幻想が消えたから
- しんちゃんと思いをぶつけ合ったから(会話はあまり成立してないので要因としては小さそう)
- 小夜子が結婚すると聞いて、AV女優という得体のしれない職業への畏怖が解け、普通の人間に過ぎないと思えるようになった
- 結局なんで問題が解決したのか。以下の複合的な要因かなと解釈している。
- たぶん好きな人にはここが面白いところだと思うんだけど、僕には面倒くせえとしか思えなかった
- ベストカップルに選出されたオチはなんだったんだろう
- コンドームをもらって今度こそセックスしたという話?
- 中学のベストカップルで景品がコンドーム、そんなことある?
小学5年生から中学2年生に成長したのにしんちゃんが女性声優のままだったのはかなりの手落ちだと思う。心身が成長して性行為ができるようになったというのがストーリー上重要な要素だったはずなのに声変わりしてないのはおかしい。同じ志村貴子原作アニメの『放浪息子』では子役を起用するほどこだわっていたはずなのに。
おわりに
話の筋になかなか入り込めなかったが、アニメとしての完成度は高かった。線が少なく彩度が低いキャラクターデザインと動きの少ない演出が作品世界の温度を下げ、そこで描かれている濃密な性を刺激的なものではなくむしろ「日々」の中にあるものとして描写している。芝居作画でいうとEpisode3の冒頭、食卓辺りまでがよかった。ここはEpisode1やEpisode2のような大人の鬱々とした日常とは違い、普通の家庭の食卓にAV女優が混ざっているという異化効果が大事なのでこれで正しい。
効果音の使い方が上手い。OPの音楽+雑踏の音+セリフの絶妙な音量バランスで既にこのアニメは音響で戦うという主張は感じた。2種類の足音をタイミングをずらして鳴らすことであやさんがえっちゃんの後ろを歩いていることを表現したり、ベッドに入っているみかちゃんの顔を映しながら布の擦れる音を鳴らすことで自慰を表現したりと、派手な演出を避けつつもアニメならでは音というチャンネルを使って原作の雰囲気をより豊かに再現している。
話がよくわからなくてもアニメの映像と音、そして志村貴子の爛れた雰囲気に包まれている体験は心地よかった。良くも悪くも雰囲気アニメだったと思う。
紹介
- 繊細に描かれる人と人との繋がり「どうにかなる日々」感想
- 公の空間と密室という観点が面白い。その観点で見ると3話でしんちゃんは夢精したパンツを浴室で洗っているのだが、父親にバレていて、浴室のドアが開け放たれており、玄関からも視界が通ってみかちゃんにもバレてしまうというのもすごい。父親の小夜子への態度を見ても、かなり性にオープンな家庭のようだ(だからこそ小夜子は逃げ込んできたのかもしれない)。そんな家庭に育つと中2でセックスできるんですね。