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伊藤智彦の2022年のアニメ振り返りインタビューで言及されていた作品。予言(願望?)の通り日本語吹き替え版が作られ上映されている。
「力」のアニメーションだった。「ライオンになる」という目標のシンプルな力強さと、それを具現化する映像のパワーに圧倒された。途中で「一番高い柱には登るな」とチアンが行っていたので絶対登るじゃん〜って思って見ていたけど、観客の期待に大筋でちゃんと応えながら、少し捻って独自の落とし所を見せてくるというのは、予想が成就する安心感と裏切られる驚きのバランスという観点でパーフェクトに近いと思う(『月がきれい』3話もそれができていたからすごいんですよ)。
大筋は王道だったので率直に言ってあまり語ることがないが、細部を切り落とす判断が巧みだったと思う。地元のライバル(義という名前らしい)とか、チュン(女)とか、チュン不在の3人の練習や興行(演技してお金もらってたんだよね、たぶん?)とか、決勝の対戦相手の青チームとか、もっと書こうと思ったらいくらでも余地はあった。でもそういう細部の充実ではなく、チュンがライオンになる道と、その試練である格差と貧困の描写にフォーカスしていた。それでいて、細部の話も使い捨てるのではなくクライマックスのシーンにつながってくるのがアツかった。逆にそこまで深入りしなかった要素だからこそ、獅子舞があるからつながったんだという感動があったのかも。
描かれなかったとは言っても、チュン(女)や義にも物語はあったはずだし、最低限の描写からそれを読み取るのも面白い。チュン(女)は本当は獅子舞を続けたかったけど「女だから」という周囲の圧力で辞めざるを得なくなっている。そんな彼女が妥協の末に掴み取ったポジションが「広報」だったのかもしれないし、自分の獅子頭を託す相手としてチュンを選んだのも単に「英雄の花」だけが理由じゃなく、何かしら自分の境遇と重なるところがあったのかもしれない…とかね。
義も、チュンが獅子舞をやろうとしているときはバカにするが、獅子舞を諦めて出稼ぎに行くのを見たときは神妙な表情を浮かべていた。獅子舞に専念できる環境が実は得難いものであるとわかったのだろうし、働きながらも鍛錬を続けて実力を保って戻ってきたチュンを見て尊敬するに至ったのだろう。
チュンが18歳というのは聞いて驚いた。ビジュアルも行動もそんな感じしないので。中国も18歳で成人なので「僕はもう大人だ」は文字通りの意味。でも貧しくて進学できず田舎暮らしだとああいう感じになるんだろうか。ただ、自分が置かれた境遇の惨めさを理解し、それを変えるための行動力があるという点、そして父親に代わって家族を支える責任感は年齢相応の頼もしさだった。
広州の屋上でチュンが獅子舞の練習をするシーン、練習日誌のようなものがあるので継続的に練習はしていたのだろうが、いつからだろう。獅子頭を部屋の隅に置いてあまり触っていないというような描写もあった気がしているんだけど、その後チュン(女)に会って再会したんだっけ…?そのあたりの経過はあまり把握できなかった(だからチュンが戻ってくるのかは本当にヒヤヒヤしていた)。
映像のクオリティは高い。まず日本のアニメを見慣れた目からすると、キャラデザの目が小さく、髪の毛が細かい。もちろん十分それで芝居が成立していたので良い。広州に出たあとにチュンの体格がよくなっていたのが芸が細かい。CGならではの長尺カメラワークもあるし、レイアウト、照明も一級品。花が舞い散るような物量の表現もよし。獅子舞の動きは、獅子頭自体のディテールが重いうえに動きもリッチだったので情報量過多になりそうだったが、動きの方がオーバー気味に表現されていたので問題に感じなかった。獅子頭が2つ登場するところはストーリーのキーポイントになるが、どちらも赤で(チームカラーなのでバラすわけにはいかないだろうが)判別が難しいのが惜しかった。でもチュンがチュン(女)からもらった獅子頭で乱入するところは最高だったなあ。
ギャグの入れ方のセンスは中国風を感じた。振りからオチまでが短いハイテンポギャグを大量にいれるやつ。