大宮駅東口は堀尾コウと松樹凛の同人サークルだ。
明日のコミティア128(東京ビッグサイト青海展示棟)。
サークルは【G15b 大宮駅東口】まつきりんくん(@45g_moo ) と怪談本を出します。1部500円です。#COMITIA128 #コミティア128 pic.twitter.com/7uSb7DpNd9— Jʕ•͓͡•ʔJ (@JJ8423) May 11, 2019
明日のコミティア128(会場:なんかいつもと違うとこ)でJJくん(@JJ8423 )と怪談本を出します。短編23本が入っております。スペースG15bの「大宮駅東口」でお待ちしてますので、是非遊びに来てください。#コミティア128 pic.twitter.com/2T5HNzrfi8
— まつきりん (@45g_moo) May 11, 2019
彼らがコミティア129で発表した短編集『声のない囁き』を読んだ。短編の怪談が多く収録されている。なかでも堀尾コウの『事故物件』と松樹凛の『毎秒一八六、〇〇〇の幽霊』が素晴らしかった。
『事故物件』(堀尾コウ)
『事故物件』は「Nさん」の体験談を「私」が取材しているという体裁で始まる。事故物件に住み始めたNさんはささいな異変をきっかけに霊に怯えるようになり、前の住人のことを調べ始めた。すると前の住人もさらに前の住人がどうやって死んだのかに怯える中で精神を病んだことがわかる。やがてNさんも精神に異常を来し、私は取材をやめる。
この物語で見事なのはごく短いなかに「無限」の恐ろしさを描き出したことだ。それはあわせ鏡のように、数学的帰納法のように、あるいは階段の手すりから身を乗り出して下を眺めたときのように、そして毎日歩く道にある決して中が見えない側溝の穴のように、すぐそばにあるが決して見通せないものの恐ろしさだ。Nさんが前の住人のことを調べるように、前の住人もその前の住人のことを調べる。無限の連鎖の終わりの見えない恐ろしさと対比して一つひとつの鎖は単純で、居酒屋の店主が世間話のようにあっさりと語ってくれる。単純な鎖がつながって死の連鎖になる話と考えると、この物語がNさんの取材という体裁を取っている、すなわちNさんの一人称ではなく私とNさんのつながりで書かれているのも不気味な雰囲気を帯び始める。自分がいつ誰からバトンを受け取るかわからないし、「私」も無事でいられるかどうか心配になってくる。
主題ではないが、「いまどきの賃貸アパートの住人ですからね。過去の隣人の事なんて覚えている人はいませんでした」というのは現代の都市生活の冷たさを描いているようでいて、実際にはNさんを守る結果になっているのは面白い。Nさんを狂わせたきっかけはアパートの「向かい」に立つ居酒屋の店主だ。僕も都市で暮らしているが、都市の希薄な人間関係でいろいろなことを知らずに済んでいるのかもしれない。
最後にNさんが狂ったことを表す描写として「頭にアルミホイルを巻いている」というのはかなり強い毒が効いている。統合失調症の患者が幻聴の原因を電波と考えてアルミホイルを被ることがある。怪異の物語と思いきや本物の怪異は無限の彼方に隠れたままで、描写されるのは具体的な病気というのは軽妙な肩透かしであって、かつ肌感覚の伴った怖さを生み出している。
『毎秒一八六、〇〇〇の幽霊』(松樹凛)
『毎秒一八六、〇〇〇の幽霊』は怪異の中に青春小説のような爽やかさを含んだ作品だ。人によっては百合というかもしれない。99%が空気と同じ幽霊が増え続け、少しずつ空気を薄くしながら真綿のように世界を締め付けていく。その中で自らの「役割」を見失った不登校の少女が、毎日プリントを届けに来てくれた同級生の少女のことを理解するという物語だ。
この作品のテーマは「役」だ。不登校の美玖は何の役割も持たない存在であり、それはほぼ空気の幽霊やほぼ水のクラゲと同じだ。そんな美玖と、なぜか毎日のようにプリントを届けてくれる加藤さんの会話が2回ある。最初の会話では加藤さんが無理して話題を振り、美玖がそれを冷たくあしらう。その会話の後、美玖が何の「役」割もない在り方に恐怖を感じつつあることが明かされる。2回目の会話では美玖が「クラス演劇には自分の役はあるのか」と質問する。加藤さんは呆れた顔をし、その後責めるような、裏切られたような口調で「出たいの?」と問い返した。一読すると加藤さんは「不登校のくせに演劇に出ようなんて図々しい」と思っているのだと思わされてしまうのだが、そうではない。加藤さんは「役」から逃れたくて、「役」のない美玖のところに通っていた。だから裏切られたように感じ、劇の練習中に泣き出して学校に来なくなってしまった。それを聞いた美玖は自分と加藤さんが理解し合えることに気づく。加藤さんサイドのことを語りすぎずひねくれた美玖の視点に限定しているのがドラマティックだ。
本筋以外の細かい描写もいい。物語が冬の夕暮れから始まるのは緩やかな世界の終わりを感じさせるし、ラストシーンで空の星が見えなくても「車のライトの列が天の川みたいに煌めいている」というのは希望を感じさせる。加藤さんから渡された宿題が「食塩水の問題」なのもいい。世界の空気が幽霊によってどんどん薄まっていくことを示唆している。美玖がごみ捨てに行って猫の幽霊と出会うシーンは意図が掴めなかった。幽霊も「何か」であって存在しているということを印象づけるシーンだろうか。
小説はあまり読まないので難しかった。全てが書かれているという意味ではわかりやすいのだが、文字で記された概念を操作する経験が足りていない。いろいろな人と感想を語り合ってみたい。