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『映画 さよなら私のクラマー』を見た

· 8 min read

『さよならフットボール』(新川直司)が原作。続編である『さよなら私のクラマー』の映像化はテレビで2021年4月から放送中。この映画は4月1日に公開されるはずだったが、コロナ禍の影響で6月に延期された。本来は作中の時系列通りに映画を見てその後テレビシリーズを見ることを想定していたのだろうが、この延期によって高校生編の後に中学生編を見ることになってしまった。

この延期によるテレビシリーズへのダメージは大きかったと思う。主人公である恩田希の原点・行動原理などがわからないままテレビシリーズを見ても全く理解できない(恩田がサッカー上手いという事実すらよくわからない)。また、区切りのいいところまでを1クールでアニメ化するという要件もかなり厳しいものだったようで、尺を埋めるためのアニメオリジナルシーンの挿入や引き伸ばし演出が目立つ。シリーズ構成の高橋ナツコはしばしば原作クラッシャーなどと悪しざまに言われるが、少なくとも今作については難しい仕事をなんとか形にしており、苦労をしのびたい。

どうしてこういう背景事情の話を最初にしたかというと、あまり出来の良くないテレビシリーズを見てから映画を見たせいで相対的に非常によく見えるという体験をしたからだ。だから以下のレビューはすこし差っ引いて読んだほうがいいよ。

ストーリー

とにかく話がわかりやすい、何がしたいかわかるというのが素晴らしかった。

ナメックが恩田に「女の体じゃ勝てねえよ」みたいなことを言うシーンはいろいろな感情が想像できてよかった。体がぐんぐん大きくなる中学生の時期だから、ある程度は本気でそう思っていたのだろう。男子ばかりで厳しい練習に耐える部の雰囲気がそういう考え方を醸成したということも想像できる。さらに、恩田に対する思慕もまた原因だろう。たくさん練習して強くなった自分を見てほしい、(後輩の前だったので)今は自分も「親分」のような立場にあるんだという誇らしさも。

一番良かったのは試合前半部分で恩田がナメックのプレーを見ているシーン。成長したナメックの強さを映像でもセリフでも表現し、恩田の感情がどんどん高まっていく。特に外に出たボールが恩田に転がってきてナメックと睨み合うシーンはすごい迫力だった。それに対して強行出場後の試合後半は(原作者の癖だと思うのだが)展開が盛り上がるほどにモノローグが増えてスピードが落ちていくのがもどかしかった。

順平はひどい目にあっているが、彼は男で来年は確実にもっと強くなる。今年出場のチャンスを逃したのは大した問題ではない。それに対して希にとっては中2の新人戦は最後のチャンスだった。この試合に出たところで既に男子には勝てなくなっていたのでナメックに対する私怨を晴らすことはできなかったが、夢のあるサッカーを見せつけて歓声を浴びる体験は彼女のサッカー観を変えて(あるいは初心に戻して)今後のサッカープレーヤーとしてのキャリアに大きな影響を与えた。さらに鮫島監督にも恩田の新しい役割を認識させ、そのサッカー観を変えた。1年後だったら恩田はここまでのびのびとはプレーできず、このような気づきを得ることもなかったのだろう。

「勝てるサッカーとは別に夢のあるサッカーがある」というような話はテレビシリーズにもつながってくる。というか先に知らないといろいろわからない。

テクニカル

作画&CG

サッカーというのはアニメで描くのが難しい。広いフィールドの中での選手のマクロな位置関係と、各選手のミクロなテクニックの両方を描く必要があるからだ。本作ではCGを取り入れてミクロ-マクロのシームレスな転換、さらにダイナミックな主観視点をも実現している。CG自体には拙さも感じるが、サッカーをどうやってアニメ化するかという問いに頑張って答えを出している。サッカー考証は大草芳樹、サッカー演出は石井輝。

作画もかなり頑張っていた。特にキャラクターの現在と過去が交錯しながらのサッカーシーンは物語の盛り上がりと相まって素晴らしい迫力だった。ものの形を変形させるという、本来手書きアニメーションが得意とする表現力が発揮されており、正確な描写を得意とするCGとの良い対比でもあった。

細かい話だが、恩田の超絶技巧でナメックが何をされたかわからないところではちゃんと映像も省略されていて、ある意味で筋が通っていた。