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『映画大好きポンポさん』を見た

· 9 min read

ストーリー

原作はpixiv で読める分だけ既読。後半のオリジナル部分で原作のコンセプトの正反対を行ったので混乱したし、平凡になってしまった。

独善性 vs 社会性

原作ではポンポの繰り出す簡潔で強烈な映画論と、オタク気質のジーンによるこだわりの追求がすべていい方向に作用していくシンプルさが楽しかった。ポンポが舞台装置としても機能し、バックで面倒なことは全部処理してくれて、かつポンポが選んだジーンは失敗しないだろうという信頼があったからこそのシンプルさだ。

その一番強烈な具体例は原作だと最後に位置している編集のシーンだ。コルベットの「誰か一人その映画を一番見てもらいたい誰かのために作ればいいんだ」というシンプルなアドバイスに従い、ジーンは大量の素材を90分にまで切り刻んでしまう。ポンポただ一人のために、多くのスタッフとともに苦労して撮影した素材のほとんどを捨てるという独善的な狂気こそがジーンの才能であり、映画監督に必要な資質であるという話だったはずだ。

一方アニメでは「映画はみんなで作るもの」というコンセプトが加えられている。たとえばジーンのアイデアに現場のスタッフたちがアイデアを足して作られたヤギのシーンや屋根から落ちるシーン(ややこしいが、シーンを撮影するシーンである)などは、そのコンセプトに従って付け加えられたものだ。

後半のオリジナル部分では追加撮影のエピソードでスタッフ・役者・スポンサーを集める苦労にフォーカスし、プロデューサーに土下座する、試写に間に合わなくてスポンサーに怒られる、銀行の重役達を動かすために搦手を使うなど、人を動かす能力が試されるシーンが多かった。また、ジーンが映画を作る目的も「全ての人」(正確な言葉を覚えていないが、世界中のあらゆる困難に立ち向かっている人間をイメージさせるシーンがあったはず)に変わってしまった。それでいて前述のコルベットのアドバイスはカットされず、むしろアニメ化に当たってピント送りの演出を用いて強調されているのだから、どっちが本当に言いたいことなのかわからなくなっている。

ポンポがジーンをアシスタントに選んだのは、ジーンが「社会に居場所が無い人間特有の追い詰められた目をしてる」からだ。そこに続く「社会と切り離された精神世界の広さと深さこそがその人のクリエイターとしての潜在能力の大きさ」というセリフからもわかるように、とかく協調性・社会性・コミュニケーション能力がもてはやされる世の中だがクリエイターに必要なのはむしろ独善性であるという主張が原作の面白いところだったのだが、アニメのオリジナル部分は結局コミュニケーション能力がないとやっていけないという話になっている。もちろんこれも一面の真実だろうが、原作の鋭さに比べるとずいぶん牙を抜かれた印象になってしまった。最後の「捨てる」話の辺りは見ながら整理しきれなかったので実は上手く止揚してたのかもしれないけど。

ちょっとメタな視点に移ると、もともとアニメの原作として企画したがボツになって個人的に描き上げた原作のマンガが上述のような思想を持っている(マンガも2巻以降は社会性要素にフォーカスしているらしいが、読んでないので知らないし、それは出版社が入って出版されてからの話ですよね?たぶん)こと、そして改めて企画が立って多数のスタッフの共同作業によってアニメ化された方はコミュニケーション能力の重要性にフォーカスしているというのは、制作体制がストレートに作品に反映されているという点で興味深い(所詮一人じゃ何も出来ねえんだよというマジョリティからの悪意のようなものを感じなくもないが…考えすぎかな)。

原作者がアニメには関わっていないと強調しているのもその辺りの考え方の違いを前提としているのかもしれない(このツイートの中でも「非共感的」な方が良いと言っていて笑ってる)。

その他

ジーンが追加撮影を求めるシーンで、ポンポは「スタッフをもう一度集めるのは誰か」「役者をもう一度集めるのは誰か」「この脚本を書いたのは誰か」と問いかける。この3つ目がよくわからない。脚本を書いたのはポンポだから、ジーンは要するに「お前の脚本は不完全」って言っている。そこでポンポがジーンを責めるような口調なのはよくわからない。

テクニカルな話

作画

劇場作品のアベレージより上。全部良かった。泥を投げ合うシーンが特に上手かった。あと極上ヤギ作画。

音楽

クラシック音楽の演奏は本格的で良かった。既存の音源かな?

演技

ジーン役清水尋也は結構良かった。いかにも俳優が声優やってますという感じの不安定さがいい味だった。

ポンポ役小原好美はキャリア初期に感じた「舌っ足らずで抑揚に乏しいナチュラル感」という武器をすっかりコントロール可能にしていてすごい。

ナタリーの祖母として谷育子が出演しており、次見るときはもっとちゃんと声を聞きたい。

その他

パンフレットには主要スタッフの他に演出の居村健治、編集の今井剛のインタビューがある。