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『君たちはどう生きるか』を見た

· 10 min read

3/10

もう全然わからなかった。僕はわからないアニメは面白くないです。

もちろんわからないものは100回見ればわかるのかもしれないが(特に僕は映画館での初見理解がかなり苦手なので)、劇場公開中の作品に対して「細かく整理しながら何度も見れば面白いのかも知れない」とか言うのは、過剰に好意的だと思う。そういう評価は10年後に改めて下せばいいじゃないですか。

「わからないからつまらない」は狭量だって批判もあるかもしれないけど、じゃあ構成の美の欠如を補ってあまりあるような瞬間が、爆発が、イマジネーションの奔流がこの映画にあっただろうか?そういう力のあるビジュアルはなかったよ。自慢の食事シーンも、紙の式神たちも、動物たちの世界も、やはりかつて見たもののパワーダウンだ。どんよりと静まった海原に頼りない船がポツポツと寄る辺なく浮かんでいる様子。これ『雨を告げる漂流団地』で見たよ(キレちゃった駿から出てくる表現は実は他の人間でもできるという意味では「後継者問題」は解決してるのかもしれない。他の人間は逆にもっと頭を使わなきゃということです)。仮にパワーある表現があったとしても、やはりそこに構成が不在だと記憶には残りにくい。よく児童文学系のアニメだと夢のようなイマジネーション溢れる舞台が次々移り変わっていくような展開があるが、あれ覚えられないですよ。

ただもう宮崎は確信犯ですよね。しょうがない。僕は『もののけ姫』と『風立ちぬ』が好きなんだけど、もののけから辻褄の放棄はどんどん加速して、風立ちぬだけは少し取り戻している(さすがに史実ベースなので)という認識なので、そもそも晩年期の宮崎作品ってこういう方向性だったんだ、ということを思い出した。

一番すごかったのが冒頭の大平晋也ですよ。これはもちろん『虹色ほたる 〜永遠の夏休み〜』のバージョン違いであって悪く言えば「そこ止まり」なんだけど(アニメを見すぎている方が悪い)、『風立ちぬ』と同じく一応ちゃんと顔を描いてるのはさすがにジブリに対する敬意なんだろうか(さすがに本田雄に描かせてないよなあ…)。でもこれは中盤終盤が序盤に負けているという点、ファンタジー世界が現実側に負けている点の2点で良くないアニメーター采配だったんじゃないかなあ。宮崎駿は原画修正をやってないということはないだろうけど、しわや身体運動の腰の使い方を見ると本田雄の絵になっている部分が多かったね。

だからやっぱり、僕にとってのこの映画ってファンタジー世界に行くまで。でも視聴から時間を置いてその部分のことだけ考えてみると、案外いいアニメだったのかもと思う。

母親を失った眞人の継母と父親に対する感情が、極めて少ないセリフによって(むしろ、セリフが少ないことによって、か)表現されていくのは禁欲的で美しく、はっきり言ってエッチだなと思った。そもそも眞人くんだいぶ「イイ」よね。声変わりはしてるんだけど、あの時代だからプロポーションは細め。それでも同時代の子どもたちの中では良いものを食べていたんだろうけどね。

母親の死の傷が癒えぬまま、田舎へ来てみると母に似たちょっと若い女が継母になっていて、しかも妊娠していてお腹を触らせられる、もうそんなの感情がグチャグチャになるじゃないですか。ショタの感情がグチャグチャになるのはね、美しいんですよ。お腹を触るときのものすごい表情、僕はその中に女性の体への恐怖と不潔感を見ましたが、素晴らしかった。性愛に無頓着というわけではないが、母親への肉体的な親密さを完全に卒業したわけでもない、絶妙な年齢感ですよね。

作家論を持ち込むならアオサギ鈴木とか大叔父高畑かとかどうでもいい話じゃなくて、ここじゃないかなあ。駿という男の女性観。妊娠できる年齢の女性は恐怖の対象なんじゃないですか(適当)。考えてみれば宮崎駿って少年と性の話って正面切って描いたことあったのかなあ。全作品見てるわけじゃないので自信を持っては言えないけど、彼の描いてきた少年は基本的にもうちょっとカラッとしていなかったか?そう考えると、これは記念碑的な作品ですね。

はっきりとは説明されない自傷行動の話も好きだった。誰かに罪を着せる気か?と思いきや、父親にはただ「転んだ」と言い張る。それも含めて父親をコントロールしていたのか、翻意したのか、自分を見てほしかったのか、何の目的もないが衝動的にそうしたのか。眞人くんの精神がじんわりと痛めつけられていく過程があり、その噴出としての、長短どちらの主和音にも解決しない、ただただ血が鮮やかなだけの自傷。

あとはアオサギへの異常な攻撃性。そりゃ喋るしキモいし母親死んでないとか言い出すし怪しさマックスなんだけど、それにしたってあそこまで殺意マシマシの手製武器作るか?普通。いやあのくらいはむしろあの時代の男の子は普通なのかな…タバコも盗むしさ…。

総じて抑制的でありながら、そのところどころに顔を出す激情。その緊張感が僕はこの作品で一番良かったところだと思う。

ファンタジー世界に行ってからは、眞人くんの拘束シーンしか覚えてないです。