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『ポケットモンスター(2023)』18話『そらとぶピカチュウ、どこまでも高く!』を見た

· 14 min read

なぜか公式見逃し配信が2つある

細やかな演出が行き届いた良いエピソードだった。

絵コンテ冨安大貴
演出中田誠
脚本松澤くれは
作画監督大西雅也
作画監督大野泰江
作画監督忍田雄介
総作画監督伊藤京子
メインアニメーター忍田雄介
カラースクリプトおつまみ

※本記事内の画像はアニメ『ポケットモンスター』18話より研究のために引用したものであり、それらの権利は©Nintendo・Creatures・GAME FREAK・TV Tokyo・ShoPro・JR Kikaku ©Pokémonに帰属します。

OPカット

テレビ放送/dアニメストア/ニコニコ生放送ではOPがカットされ、普段OPで表示される分のクレジットは最後にOPが挿入歌が流れているパートで表示された。YouTube版(ポケモン公式YouTubeチャンネル・テレビ東京公式 TV TOKYO)ではOPがあった。

納品タイミングかなにかの関係でYouTube版ではOPを入れる再編集作業をしたのだろうが、テレビアニメでOPを抜くのはそれはそれで演出の一貫なので、そのまま見せてくれたほうが嬉しかった。

会話の裏のポケモンの遊び

開幕、キャプテンピカチュウについて話す子どもたち…のポケモン。人間の会話に興味がないのか、パートナーが相手をしてくれないからか、ポケモン同士で勝手に遊んでいる。こういう細かい描写があると、ポケモンの性格や交友関係がわかって楽しい。描くのは大変そう。冨安大貴はこういうこだわりが強い印象があるけど、実際のところポケットモンスター(2023)は常時このくらいやっててすごい。むしろその作風を作ったのが冨安監督というのは言えるかもしれない、サンムーンに詳しい人教えてくれ。

ちなみにロイは前回ドットの部屋に来たときは一人だけ椅子に座らされていたんですが、今回はベッド。

ツボツボのジュース

甲羅の 中に 木の実を ためる。 やがて 木の実は 体液と 混ざり おいしい ジュースに なるのだ。

とのことだが、知らなかったので見たときはかなり驚いた。

よく見るとポケモンたちの飲み方も三者三様で面白いし、それぞれ飲みやすいように器が違うので、オリオが準備してあげたんだろうか。クワッスの目に感情がない。

というか私は悪い大人なので『アウトレイジ ビヨンド』を連想してしまった。8:11

芝居のあとにセリフが入る

細かい話だが、フリードが寄りかかってため息をつく芝居の後にセリフが入るというのが、ちょっと珍しい気がした。演出家やアニメーターが芝居をコントロールしている感じというのかな。芝居と間の感覚がセリフよりも先にある(若干芝居が失敗してる気がしなくもないが)。

場面転換の方法

電話で呼び出されたフリードが待ち合わせ場所の飲食店に到着するまで大胆に省略している。そもそも呼び出されたという情報さえ事前には明示されなくて、最後まで見て初めてそうとわかる。

これはマッチカット…と言うのかな?もっと関係ないものでカットをつないで意表をつくのがマッチカットだと思っていたので、同一人物の同一ポーズのことをマッチカットと言われると少し違和感があるが、呼び名を知らない。つなぎ方というよりはむしろ過程の省略という方向性で解釈すべきかも。

とにかく、PANやエスタブリッシングショットなしでシーンを転換するのは原則からは外れている。なぜ外したかといえば、これが回想であってリコたちに昔話を語って聞かせているという建付けだからか。あるいは、この頃のフリードの精神状態の現れともとれる。日々ぼんやり過ごしているので過程の記憶がない。

のれんくぐり作画ちょっと上手い。この直後に別アングルからリザードンののれんくぐり作画もあるけどそっちも上手い。リザードンののれんくぐり作画って過去に例があるんだろうか。

ボルテッカー竜巻

ポケモンの世界って野生動物が火を吹いたり電撃を出したりするので結構神秘的な世界だなって思ってたけど、夜明け前の暗い朝にボルテッカーで竜巻を起こす様子がまさにそうだった。

その種にギリギリ可能な変な行動をする個体って現実世界で言うとなんだろうなあ。レッサーパンダが二本足で立つ、みたいな?

木の実

まだ心を許してくれないピカチュウに木の実を差し入れるシーン。芝居作画が際立って上手かった。

2カット目、フリードとリザードンがたくさんの木の実を抱えて手前に歩いてくる。木の実を少し持ち上げてピカチュウに見せる仕草。少し木の実が跳ねる。人間の小さく速い縦揺れと大股でノシノシ左右に揺れながら歩くリザードンの遅い横揺れの対比。木の実は引き写しではなく歩行に合わせて揺れており、フリードの足はフレーム外に切ってあるものの服のシワで足運びが見える。細かいことを面倒臭がらない作画。美味しそうな食べ物をたくさん抱えて歩いてくるという状況のワクワク感が出ていると思う。

ピカチュウのしっぽスクワットは、最初はカッチリと描いておいてフリードの探究心が刺激される流れに説得力を持たせ、その後は少しデフォルメも入れてやっぱり変だよねと笑いにしていく。緊張と緩和の関係は筋トレそのものだ。

木の実を見たときのピカチュウの反応は動物的。遠巻きに匂いを嗅いで、食べられると判断したら持って安全な場所に移動して食べる。そのときにちょっと落としちゃったり、掴みそこねたり、歯型がついていたり。野生動物っぽい行動なんだけど、だからこそフリードを信頼して持ってきたものを食べてくれたことの重みが伝わる。

リザードンのしっぽの火

本当に細かいところなんだけど、フリードが倒れ込んだ風でリザードンのしっぽの火が揺れている。なんかもう細ければ細かいほど感動するモードになってる。こういうほんの小さい日常の出来事が、フリードとリザードンの間には数限りなくあるんだろうなって考えちゃう。

相対速度ゼロの空間

(この前の作画が素晴らしいんだけど、そこはもう言葉は要らないと思うので、見ましょう。盛り上がりすぎて人物なのかエフェクトなのかわからなくなる作画大好き)

相対速度ゼロの空間という概念が好きだ。2人が同じ速度で高速移動しているとき、その2人とそれ以外の人間の間には相対速度の壁があって会話等のインタラクションが発生しないが、2人の間には発生する。むしろ2人だけの空間ができると言っても良い。

このシーンでは、もちろん上空だから邪魔者がいないというのも大事なのだが、ピカチュウがボルテッカーによって到達した垂直上昇速度の世界にフリードとリザードンが入り込んだとわかるのが素晴らしいなと思った。その速度というのが憧れの大きさなので。

リザードンの首を叩く

これも細かい話ではあるんだけど、リザードンに急降下の指示を出すときにフリードがリザードンの首を叩いているのが好き。ウマにやるよね。人間と動物のコミュニケーションって本来触覚による部分が大きい。もちろんポケモンは動物ではないのだが、人間よりは動物に近い。言葉が通じてもポケモンはポケモンであるというのがポケモンの研究者であるフリードらしさなのかな。そもそもフリードは大事なことをしばしば言い忘れるし、ライジングボルテッカーズの「仲間の証」はハンドサインだ。

ポケモンと言語の話は最初に挙げた人間の会話に興味がないポケモンたちとも一貫している。

(そういえば数話前でポケモンたちに食事を与える前に「待て」「良し」をやってたのはすごい違和感あった。言葉が通じて理性がある生き物にする扱いじゃないだろ)

セルのタイムラプス

セルで船の建造過程のタイムラプスを描くのは、よく見る背景のタイプラプスとは全然意味合いが違うと思った。見る方としてはポケモン世界の社会科見学くらいのつもりで見ればいいんだけど、船の構造と、各作業工程で人間とポケモンがどう協力しているのか逐一考えながら60枚近く描いているのでかなりすごい。本来複雑で時間がかかる作業を圧縮して見せるための手法だから再現するなら当然大変。

20230827追記

友人からタレコミがあり、『ソードアート・オンライン アリシゼーション』のOPに都市の建築のタイムラプスがあるとのこと。

さらに先行研究を調べてみると、大匙屋氏のブログにまとめ記事があった。大部分が雲や光のものだが、『この素晴らしい世界に祝福を!』EDでは人間の活動もタイムラプスに含まれていた。

http://sajiya.blog89.fc2.com/blog-entry-523.html