原作20巻分を劇場の尺にできるんだろうかと思ったが、できなかった。尺に苦労していたことは本人の口からも語られている。
脚本の吉田(玲子)さんに「この内容で90分に収まりますか?」と聞いたら「難しいと思います」と言われ、これは覚悟してかからなくてはいけないなと思いました(笑)。
映画「若おかみは小学生!」高坂希太郎監督「小学生の可愛らしさを意識的に表現」
脚本がまずい
意味がわからない。わからないものをなぜわからないのか説明するのは難しい。個々のエピソードも説明不足で雰囲気だけ解決して終わるみたいなのが多い。あかねが急に元気になった理由も美陽が鯉のぼりを飛ばした(物語上の)意味もわからない。おっこが神楽をやることになったいきさつも描かれてないし、真月の耳を触る仕草の意味も説明されていない。それでいてグローリーとの買い物でのコスチュームチェンジは挿入歌まで入れてノリノリでやられるのでその時点で「あー子供向けアニメなんだなあ」と半ば諦めた。
部分の問題点は挙げればきりがないが、全体の流れについて考えてみる。
春の屋旅館には3組の客が現れる。
- 神田親子
- グローリー・水領
- 木瀬家
中盤までおっこは幽霊たちと楽しく若おかみをしているのだが、時折両親の回想が挿入される。そこでおっこがまだ両親の死を認めていないことが示される。またおっこは中盤から徐々にウリ坊たちを感じ取れなくなるが、その理由は説明されない。ただ鈴鬼が「ウリ坊と美陽が成仏する日が決まった」と言うだけだ。特に外的な理由が与えられず物語の進行に従って消えるというのなら、ウリ坊や美陽は全ておっこが作り出したイマジナリーフレンドなのか?これは無敵の解釈なのであまり使いたくないんだが…
終盤、おっこの両親の死の原因となった木瀬文太が来訪する。おっこは事実を知り、幸せそうな木瀬家を目の当たりにして自分の両親がもういないことを認識して、泣きながら旅館を飛び出る。そこにグローリーが現れ、おっこを慰める。するといきなりおっこの心が復活して「自分はもう死んだ両親の残した子ではなく、春の屋の若おかみだ」と宣言する。ここの意味が全然わからない。そしてここの意味がわからないと映画全体もまったく意味不明になってしまう。
おっこは両親の死を認めない、ボタンを掛け違えた状態で中盤まで若おかみを努めていた。それが解決されるときはそれまでの全ての出来事について総括しなおし、それらの見え方がガラリと変わるような仕掛けがあると思っていたのだが、実際は上記のようになんだかよくわからないうちに解決したことになっていたのでこれまでの適当なエピソードの蓄積はなんだったのかと思った。
そもそも12歳の少女がいきなり家族を奪われて新しい環境に放り込まれたのに(作者が奪って放り込んだのに)、そこになんとか適応したのをめでたい成長のように描くのもどうかと思うが、こればっかりはもう高坂監督がそう思っているので仕方ない。むしろ「両親をなくした少女の成長物語ならそこを焦点にするしかない」という彼なりの誠実さなのかもしれない。
「環境によって人は形成されるということ」
劇場パンフレット
この映画の要諦は「自分探し」という、自我が肥大化した挙句の迷妄期の話では無く、その先にある「滅私」或いは仏教の「人の形成は五蘊の関係性に依る」、マルクスの言う「上部構造は(人の意識)は下部構造(その時の社会)が創る」を如何に描くかにある。
最後はウリ坊と美陽がおっこと真月と一緒に神楽を踊りながら消えていく。ずっといっしょにいた特別な存在が消えていくというお決まりのシーンなのでなんとなくいい感じに見えて、そのまま終わるので意外にも視聴後感は良い。巷の高評価はこの影響なのか、それとも穴だらけの中盤までの各エピソードにも全部満足しているのか気になる。とは言っても、これは各エピソードが丁寧に原作に忠実に描かれたテレビシリーズを見てしまっているがゆえの物足りなさなのかもしれない。
技術
作画はすごい。特におばあちゃんの回想は圧倒的に上手い。背景も高密度で色合いがよくキャラと合っていた。音楽はダメ。メインテーマに華がないし、楽器の使い方がダサくて映像に合っていなかった。1エピソード1ダサミュージックという感じで、音楽で積極的に流れをぶった切っていた感すらある。声優も皆上手かったが、特に木瀬文太役の山寺宏一は複雑な心情を見事に演じていた。美陽の声はテレビの日高里菜から遠藤璃菜に変更されていて、これはよくなかった。素人子役ということでおっこ役の小林星蘭と被っていた。
その他
- おっこが若おかみになることを決める流れはテレビではかなり嫌な感じだった(おっこの意志を無視していた)のでどうなるかと思ったが、劇場版ではウリ坊の懇願があったのでおっこの心が動かされたことに多少の納得はできた
- 僕も旅館に行けば若おかみとデートできますか?
- ウリ坊ふんどし確認
- 鳥居くん(CV小林由美子)は冒頭から出ているのにウリケンが出てなくて泣いた