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『グリッドマン ユニバース』を見た

· 8 min read

8/10

楽しくて気持ちいい映画だった。単なる大集合お祭り映画に見せかけた、独自のテーマを持つ作品に見せかけた、やっぱり大集合お祭り映画だった。きちんとエンターテイメントしていた。

一方で物語、虚構、受け手による再解釈などのテーマの表現にもある程度挑戦していたように思う。そのエンターテイメントとテーマのかみ合わせ…というかエンターテイメントに芯を通すためのテーマ設定とも思えるんだけど、これらの関係について整理して語るにはあまりにも情報が多くて、映画館で見るだけでは難しいなと思った(あと意図的に結論を出してない要素も多そう)。とりあえず断片的にでも書いてみる。

バトル、合体、変身、共闘、告白みたいなエンターテイメント的な要素をメガ盛りにすると、視聴者には多分「都合が良いな」「お祭り映画だからそりゃあやるよね」というような、少し引いた感情を起こさせてしまう。見たいものだけがたくさん詰まった作品というのは作中の言葉で言えば「痛みのない世界」「やさしい世界」であって、却って虚構性が増して視聴者の心を捉えきれない(『マトリックス』において最初に作られた苦痛のない楽園のような仮想世界に人間は適応できなかった)(何にでもマトリックスをかける男)。

だからエンターテイメントを全力でやるためには、エンターテイメント(=作り物)は本当に良いものだろうかという問いかけが必要だった。この問題意識はテレビシリーズでも同じで、執拗なまでに玩具販促アニメのエンターテイメントのフォーマットをなぞりながらも、それを客観視するキャラクターもいて、五十嵐海が担当したエピソードでは作り物の世界からの脱出が描かれる。

本作ではそんな作り物の具体例として無数の平行世界があるものとした。たとえば裕太たちが生きている世界は新条アカネによって創作された世界だから、作り物である。

もう一つ本作に導入された作り物は演劇の脚本である。テレビシリーズの『GRIDMAN』『DYNAZENON』をまるごと内包するこの脚本は、なみこによって何度もあっさりと修正させられる。エンターテイメントなんて面白いかどうかが全てで、そこに込められた思いなんてなんの意味もないという価値観を表現している。この価値観は作中ではっきりと否定されてはいなかったと思う。最終的な演劇の脚本で六花が書きたいこととエンターテイメント性のバランスがどうなったか明示されてないと思うので(「奇抜だけど笑えた」とは言われていた)。

たぶんトリガーは自分たちがアニメを作っているということにすごく自覚的なんですよね。そして真面目。だからわざとアニメのお約束を前提としたギャグをやってみたり、アニメという虚構の中で虚構と現実の関係を描いてみせたりしているのではないか。グリッドマンシリーズでは原作へのリスペクトもあってギャグ面は控えめだったけど、たとえば『SSSS.DYNAZENON』2話ではバトルシーンで挿入歌が流れるが、コクピットの中のカットでは挿入歌にくぐもったエフェクトをかけることで、あたかも挿入歌が作中の現実空間で流れているかのようなギャグをやっていた。それにアニメの世界の中にもう一階層虚構の世界を作るというアイデアは『SSSS.GRIDMAN』9話でも『SSSS.DYNAZENON』10話でやっている(裕太が世界が狂っていることに気づくシーンでは明らかにこの2つの五十嵐海エピソードを意識していたよね)。

どういう細かい流れがあったかは忘れたけど、人間だけが作り物に感動して涙を流せるという描写によって作り物もいいよねって話になる。虚構のエンターテイメントを全力で肯定できる道具立てが整うと、前述のような要素がガンガン入ってくるし、自身がアニメであることを認識した上で作り手が視聴者に目配せするようなギャグ(アノシラスのクソデカ生首とか)も入れられるようになる。

そもそもアニメが自分自身を脚本として俯瞰視するメタネタというのは『エヴァ』の最終回でやってたわけだから、この作品でやってるのはメタネタのメタネタとも言える。『エヴァ』つながりの話をすると、グリッドマンが地面に倒れ込んでワンテンポ置いて右手がカメラの近くに落ちてくるカットに見覚えがあって、クッソ汚い動画で恐縮なんだがこれの3:40だったんだけど、コメントを見たらこれ自体が『エヴァ』のパロだったらしい。

映像はディモルガン(ムチの怪獣)と戦うシーンが一番好きだった。地面からディモルガンとグリッドマンを見上げるレイアウトが多く、CG を使って特撮の重量感を再現しながらも、トリガーが得意とする金田的なポージングも組み合わさっていて、そこって組み合わせ可能だったんだ!と驚いた。

一番盛り上がったのは『インパーフェクト』が流れたところかな。『uni-verse』も良かったけどやはりテレビで何度も聞いていた曲の重みには勝てない。