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『メイドインアビス』OP最初の3カット

· 11 min read

※本記事内の画像は『メイドインアビス』OPより研究のために引用したものであり、それらの権利はメイドインアビス製作委員会に帰属します。

映像としては普通の範疇なんだけど、一見して尋常ならざるインスピレーションを受けたのでここの演出を深掘りする。最初に具体的に何が描いてあるかを確認し、その後それらの意味について検討する。

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C1…星の羅針盤

2話アバンまでで星の羅針盤に関する言及は以下の通り

  • 星の羅針盤はアビスの真実に導く
  • いかなるときも空の果てと星の底アビスを指し示す
  • 「星の羅針盤の真実が見事解き明かされ、アビスの底からは謎のロボット君が現れた。それが始まりでなくて何でしょう」

ちょっとよくわからない。単にアビスを指し示す(アビスへ向かう?)象徴的なアイテムだろうか。

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C2…落ちてくるリコ

水中のような空間でカメラが真上を向いており、目を閉じたリコが反時計回りに回転しながら落ちてくる。

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C3…落ちていくレグ

同じような空間でカメラが真下を向いており、レグが反時計回りに回転しながら落ちていく。

この映像が印象だった理由について考え、映像的連続性と意味的不連続性が同居しているからだと結論付けた。

C2とC3の映像的連続性

  • 2人がいる空間は同じ
  • 画面上の回転方向はリコとレグで同じ
  • リコがカメラに密着した瞬間カットが切り替わりレグの背中が映る

C2とC3の意味的不連続性

  • どちらのカットにも2人同時には映っていない
  • 実際の回転方向はリコとレグで逆

C2とC3は映像としてはきれいにつながっているが、そこで描かれている2つの場面はつながっていない。

正確に表現すると、リコとレグはまだ時空間を共有していない。

それではいつ2人は時空間を共有するのか。はじめてリコとレグが一緒にいることが示されるのは以下のカットである。

(このカットに限らず、この一連のシークエンスでは常にリコが上から下、レグが下から上に移動している。それは1話の再現になっている)

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この一連では2人は向かい合っていることに注目されたい。

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やはりリコが上、レグが下。あくまで普通の少年と少女のじゃれ合いのように見える。

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ライザの背中

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2人で同じ方向に向かって歩いている

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細居イラスト

 意味的に解釈していく。

 確認してほしいのは、最初は別々にしか映されない2人がサビで同じカットに映るようになり、細居イラストに至るという流れである。

 最低限この流れを作るだけであれば、冒頭の3カットに映像的連続性を持たせる必要はない。

 しかしこのOPでは敢えてC2とC3に映像的連続性を与え、冒頭でリコとレグの関連を示唆している。

それは、実のところこの2人は出会う前から同じ運命を背負っているということの映像的表現である。リコは伝説的な探掘家の娘としてアビス深層で生まれたため、その身にアビスの呪いを宿している。レグもまた、アビス深層に由来する技術で作られている。そう、2話を見たら誰もが気付いたと思うが、リコとレグにはアビスにルーツがあるという共通点があるのだ。C3でレグが暗闇に溶け込んだあとで『メイドインアビス』とタイトルが表示されるのはまさにそれを表現している。

 映像的連続性と同時に意味的不連続性が付与されているのも、単に2人の出会いをサビまでとっておきたいというだけではない。

 C2はリコだけ、C3はレグだけ、それぞれ1人だけでアビスに飲み込まれていくカットになっている。このとき2人は脱力した状態で単に落下していく無力な存在として描かれている。つまり、2人を同時に描かないことで1人だけでアビスに挑むことの不安感や恐ろしさをここで表現しているのだ。

 その後2人が現実に出会う映像には、2人の特殊な出自やアビスの恐ろしさなどは感じられない。あくまで普通の少年と少女の微笑ましい交流のように描かれている。実際リコは自分がアビス出身だと知る前からレグに愛情を注ぎ、名前まで与えている。つまり2人の関係は『メイドインアビス』仲間であることに依存していない。だから普通の少年少女として描くのは正しい。

 また、現代日本人の私から見れば厳しい孤児院で暮らしながら危険な探掘作業をするリコ達は辛い境遇だと思ってしまうが、本人たちはそれほどでもないらしいというのは本編中の描写からも読み取れる。シビアでダークな世界観と少年少女の無邪気さの両立というのは本作のテーマの1つなのかもしれない。

 現実世界で2人が出会うカットに続いて、ライザの後ろ姿のカットが1カットだけ挿入される。

 サビの3カットではリコとレグは向き合っているが、ライザの後ろ姿のあとは手を繋いで2人で同じ方向を目指している。これは2話ラスト、ライザからの手紙によって、リコとレグの関係がライザによって結び付けられ、同時にアビスを目指す動機が明確になったことを表現している。

 最後に中村亮介OPEDにおなじみの細居美恵子のイラスト。初見ではここでの止め絵は流れを切るように感じたが、きちんと意味がある。

 C2・C3ではバラバラにアビスに飲み込まれていく2人だったが、ここでは手を繋いで楽しそうに(リコだけか?)歩いている。一人ひとりではアビスに立ち向かえない。自分のルーツがアビスにあるのに、それを知ることも出来ない。

 しかし2人なら乗り越えていける。冒頭C2・C3へのアンサーとしてこのイラストがあるのだ。暗いアビスの背景に対して、いつもの細居テイストのキラキラした背景が対比になっている。

 リコとレグの出会いにかなりの尺を割いているのはこの作品の出発点を明確にするためだろう。

 アビスにルーツを持ち、その身に『メイドインアビス』の刻印を持つ2人の運命的な出会いから物語が始まる。「アニメの1話が出会いで始まるのは当たり前」という認識を超えて、この2人がまずそれぞれに運命を背負っていて、

そんな2人がさらに運命的な出会いを果たしたということを丁寧に確認していくためのOP演出である。

 「これからの出来事」を予感させる内容を少なめにしてストーリーの出発点をきちんと描くということは、序盤の時点でいろいろな展開の材料が仕込まれているということだろう。

 油断せずに楽しみながらこのアニメを見守っていきたい。